平成29年(ワ) 9779号 商標権侵害行為差止請求事件の紹介
本事件は、茨城県那珂郡東海村舟石川駅西2丁目16-3に所在し、酒店を営んでいる商標権者河野雅史氏が茨城県日立市で酒造業を営んでいる森島酒造株式会社を商標権侵害で訴え、東京地裁は商標権侵害を認定し、森島酒造に対する「白砂青松」の差し止めを認容した事件です。
原告の河野商店は2006年から、清酒「白砂青松」の販売を開始し、商標登録出願をし、商標登録を受けました。被告の森島酒造(株)は1999年10月以降、「大観白砂青松」を瓶のラベルに付して日本酒を販売しています。
しかし、森島酒造(株)の先使用権は周知要件を認定されず、商標権侵害によって「大観白砂青松」の使用を差し止められました。
森島酒造(株)は、商標の知識が無かったのでしょうか?それとも、コストを惜しんだのでしょうか?森島酒造(株)が「大観白砂青松」の使用を開始した時点において商標出願しておけば、今回の事件は発生しませんでした。多額の裁判費用とその時間、及び築きあげた「大観白砂青松」のブランドを失いました。
自社が先に使用していた商標であっても、周知要件を満たさなければ、商標権侵害によって使用を継続できなくなることがあります。周知要件は、都道府県レベルです。本事件において例えれば、県庁所在地の水戸市周辺で知られていても、つくば市や鹿島市等でも知られていなければ先使用権が認められません。この要件は、非常に高いハードルです。
思い入れのある店名や商品名等を将来も継続して使用したい場合には、商標権を取得することが、事業の継続のみならず、コスト面においても有利です。
本事件の争点を下記します。
争点1:商標の類似性
商標の類似は、外観・称呼・観念、及び取引の実情によって判断されます。
被告は「大観白砂青松」を主張しましたが、「大観」と「白砂青松」の位置関係、文字の大きさ等の相違から、裁判所は「白砂青松」が需要者に対して商品の出所識別力を有すると判断しました。
これにより、称呼は「ハクサセイショウ」であり、「白い砂と青い松」との観念が生じ、外観は異なるが、同一文字を使用しているので外観類似と判断しました。
の実情においては、商品が清酒で同一、販売地域が茨城県で同一であることから、販売価格や日本酒としての味等の差違をもって,商品の出所について需要者等の認識に大きな影響を及ぼすものとみることはできない、と判断しました。
以上より、裁判所は商標が類似し、同一商品の清酒に使用した場合、出所の混同が生じるとして商標権侵害を認定しました。
争点2:先使用権(商標法第32条)
商標出願時において、日本国内において不正の目的なくして使用し、需要者の間に広く認識されている商標の使用者は、継続してその商標を使用する権利を有します。既得権の保護のためです。広く認識されている範囲は、少なくとも都道府県レベルを要すると解されています。森島酒造(株)は、下記の実績を基に、先使用権を主張しましたが、あえなく却下されました。
☆2010年10月1日から2015年9月30日の下記販売実績をもって、茨城県における需要者において、周知とは認められないと判断しました。
720ミリリットル瓶について7900本
1.8リットル瓶について4144本
☆1999年10月10日付け茨城新聞,同月21日付け読売新聞,2001年5月21日付け茨城新聞,2004年11月10日には新潮社「旅」12月号に取り上げられているが、合計4回にすぎず,これをもって,原告商標の登録出願時において周知であったと認めることはできない、と判断されました。
訴訟に至るまでの経緯
2007年08月20日 原告⇒被告にメールを送信 商標権を有している旨を指摘
同年10月 協議中断
2016年02月10日 原告⇒被告 警告書
同年04月27日 協議決裂
☆原告商標権 第5016871号
商標:白砂青松(標準文字)
第30類:和菓子
第33塁:日本酒,焼酎,果実酒
出願日:2006年4月19日
登録日:2007年1月12日
☆被告商品
出所:http://www.taikan.co.jp/
被告HPにおけるPR(2018年05月17日時点)